海辺の街が物語る、4人の姉妹のdiary。

2013年、『そして父になる』でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した是枝裕和監督が、吉田秋生の名作漫画を、豪華キャストを迎えて映画化。是枝監督と役者たちが紡ぐ風景一つひとつに、誰もが自分の“海街”を思い出す。

画像: 撮影・上岸卓史

撮影・上岸卓史

 看護師でしっかり者の長女・幸、自由奔放な次女・佳乃、マイペースな三女・千佳。海辺の街で暮らす3姉妹に、幼いころに自分たちの元を去った父の訃報が届く。父の葬儀で母の違う妹・すずを引き取った姉妹は、鎌倉で家族としての日々を紡いでいく…。スクリーンいっぱいに広がる、鎌倉の空気感。是枝監督はさぞ鎌倉に親しみがあったのかと思いきや…。

「むしろ逆だったんです。ちょっとしたトラウマがあって(笑)」

 鎌倉にトラウマ?

「学校を卒業してテレビの番組制作会社に就職したんですが、最初に担当した仕事が『そこが知りたい』という情報番組で、25歳のひと夏を“横須賀線 二泊三日途中下車の旅”という企画に捧げたんです。一駅一駅取材しながら、タヌキを探せって言うんですよ。だから電話帳で住所調べて“すみません、そちらにタヌキって…”“いるわけねーだろバカヤロー!”みたいなことを何週間も。それで、横須賀線と北鎌倉にちょっとしたトラウマを抱えるようになっていたんです(笑)」

 と知られざるエピソードが飛び出すもその“トラウマ”は払しょくされた様子。

「今回、鎌倉で撮影していて、風景もですけど人もいいなと思いました。撮影していても、のぞきに来るわけでもなく邪魔にするわけでもなく。人に対してサラッとしているんですよ。すれ違ったら挨拶をして、ときにはちょっと立ち話して、じゃあ頑張ってくださいねと声をかけて立ち去る。その雰囲気がとても良くて。それでもう、鎌倉の印象が変わりました(笑)。やっぱり海のそばに住んでいる人って、僕には無い開放感というか、生活を楽しんでいる感じがしますね。おじいちゃんがサーフボードを持って自転車に乗っていたりするんです。こういうのいいな、と思いました。自分にはできないけど(笑)」

 是枝監督がゆっくりと海辺で散歩できる日が来るのは、いつになることやら。今回も、第68回カンヌ国際映画祭で上映されると現地でも絶賛。主人公の4人姉妹を演じた女優たちも大きな注目を集めた。長女・幸役に綾瀬はるか、次女・佳乃役に長澤まさみ、三女・千佳役に夏帆、四女すず役に広瀬すず。「不器用な役者が好き。小手先で演技をしようとしない、そこにいるだけ、ということができる役者が一番強い」と言う監督。無名の子役からベテラン俳優まで、どんな俳優からもそれぞれの輝きを引き出してきたのは、やはり是枝演出ならではだ。
「演出といっても、自分の思い通りに役者を動かすというより、彼らが何を考えて動いているのかを、きちんと気づけるようにしています。あと、カメラが回っていないときの役者たちの様子を見ておいて、撮影のときに“ここは、さっきのあんな感じでやってみましょうか”というのは、よくやりますね。演技を付けるというより、もらってくるという感じです。もともと僕はコミュニケーション下手(笑)。だから、せめて仕事ではちゃんとコミュニケーションを取ろうと思って見つけた方法なんです」

 海辺を歩き、梅酒を作り、子供のころから通う食堂でアジフライ定食を食べる。まさに監督あこがれの? 自然体で生活を楽しむ4姉妹は、実に画になる。

「どうしても撮りたいと思った画は、山形の高台にいる風景。冬、2階の部屋で4人が顔を寄せ合っている窓辺。海辺を4人で歩いているところなどですね。2階の窓辺の画などは最初から自分の中で明確に決めていたんですけど、海辺を歩く場面は撮り始めてから途中で付け足したシーンなんです。あと、障子張りのシーンも、クランクイン前に皆でリハーサルしたときの様子を見て入れました。仲良くなるためにあの家に集めて庭掃除や障子張りをしたんですけど、20代の子が障子張りをすると、こういう楽しいことになるのか、と。僕が子供のころにやった感じとはだいぶ違っていましたね(笑)。また、原作では、風吹ジュンさん演じる二ノ宮さんの食堂に4人で行くシーンが無かったんですが、病院で二ノ宮さんと幸が会話しているシーンを撮っていて、幸は食堂に顔を出すんじゃないかと思ったんですね。それで4人で行く場面を加えました。風吹さんと向き合っている綾瀬さんの表情を見て書き足したところです」

 今回は、第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞などを受賞した吉田秋生の同名コミックが原作。「自分がこの作品の何が好きなのか、という思いに素直になってシーンを選び、そこを生かすために原作にないシーンも書きました。吉田さんにも映画と原作は別物、ぜひ“是枝版海街diary”を作ってくださいと言っていただいて、それに甘えさせていただきました。登場人物ももちろん原作がベースですが、原作をなぞるのではなく、綾瀬さんで撮るならどういう幸が、長澤さんならどういう佳乃が、という視点を優先させました」

 今回、回想シーンやモノローグを入れることなく“時”を物語る。

「原作で大事にしたかった部分は、これが街の話だということと、diaryだということです。これは4姉妹物語ではない。4人姉妹が中心にいて、その周りにいろいろな人々がいて、という海辺の街の物語なんです。日記のように生活を積み重ねていくうちに、その街で季節が、時が移り変わっていく。それが原作の魅力の1つだと思い、そこを意識しました」

 流れる時を見守る観客の胸に湧き上がるのは、思い出のアルバムを見て、そこに写っていないことを思い出すような、切なさと愛おしさ。
「登場しないけど確実にいた人たち、例えば姉妹の父親や、すずの母親といった、出てこないけど確実に4人の人生に関わっている人たち、その存在感を、きちんと出さないと小さな話になってしまうと思っていました。幸の向こう側におばあちゃんがいて、佳乃は母親とダブっていて、千佳の奥に父親がいて…というような、透けて見える感じをやってみようと思った。それによって、映画に出てこない人間が、この物語以前に過ごしていた時間を感じさせることができればいいな、と。原作と違う!と言う人はいるかもしれないけど、映画を見たら大丈夫…と信じています(笑)」

“海街”が美しいのは、時の記憶をたたえているからなのかもしれない。(HL・秋吉布由子)

『海街diary』

画像: ©2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

©2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

監督・脚本:是枝裕和 原作:吉田秋生「海街diary」(小学館「月刊フラワーズ」連載) 出演:綾瀬はるか 長澤まさみ 夏帆 広瀬すず他/2時間6分/ギャガ配給/6月13日より全国東宝系公開 http://umimachi.gaga.ne.jp/

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