舞台で鍛え上げられた演技力で人気の俳優・佐々木蔵之介。役者としての評価に加え、女性からはそのルックスで、また男性からは見た目とは真逆な関西弁の気さくなトークで広く支持されている日本を代表する俳優だ。そんな佐々木が自身のキャリアの中で初の一人芝居『マクベス』に挑戦。演劇界だけではなく、多方面から注目の舞台を前にして心境を語る。

画像: メイク・西岡達也(Vitamins)スタイリスト・勝見宜人(Koa Hole)撮影・蔦野裕

メイク・西岡達也(Vitamins)スタイリスト・勝見宜人(Koa Hole)撮影・蔦野裕

 ウイリアム・シェイクスピアの作品の中でも有名な心理劇『マクベス』。その登場人物のほとんどを一人で演じきるというコンセプトのもと作り上げられた舞台がスコットランド・ナショナル・シアター(NTS)版『マクベス』だ。同舞台は2012年スコットランドで初演後、ニューヨークに招聘。上演されるや演劇賞各賞を受賞し、ブロードウェイにも進出した。今回の日本公演は、そのNTS全面協力で実現。同作品のオリジナル演出家であるアンドリュー・ゴールドバーグを招聘するほか、オリジナルの美術、衣装、照明、映像、音響デザインを使用。それをオリジナル演出による日本語版で上演する。シェイクスピア作品、一人芝居、外国人演出家とスタッフ、超話題作…とハードルが高い舞台に出演を決めた佐々木蔵之介だが…。

「いや、いや。最初にオファーをいただいた時は、即断りました。やりません、やれませんって。何もシェイクスピアを一人でやることはないだろうと。シェイクスピアさんも一人のために書いてないですから(笑)。実はいまだに、やりますと言った記憶がないんです。これだけやることが決まっているのに、非常に言いづらいんですけど、どう考えてもオファーを受けた記憶がない(笑)」

 本格的な稽古に入る前に、演出家のアンドリュー・ゴールドバーグとワークショップを行い、さらに、物語の舞台となったスコットランドに赴き、もうひとりの演出家・ジョン・ティファニーと対面も果たした。

「ロンドンでジョン・ティファニーさんにお会いして、さらに恐怖と不安と焦りが出てきました(笑)。まずジョンが演出をしている劇場に行ったら、今回の舞台をプロデュースして下さるパルコの制作スタッフがスコットランド・ナショナル・シアターの舞台監督と打ち合せをしだしたんです。リハーサルとか現場に入る日程とか。7月12日が初日というのは理解していましたが、話がどんどん進んで具体的なスケジュールが見えてきたら、まだ稽古も始まったばかりなのに、あっという間に初日がきそうで焦ってきた(笑)。しかもジョンが“まあ、よく引き受けたな(笑)”みたいな事を言って、さらに“(スコットランド版の主演の)アランはやせていったし、稽古が終わるとボロボロになって家路に着いたよ”と。それを聞いて、やっぱりそうだろうなって共感して。苦しかったんだろうなと。つまり、しんどいって事を再認識しただけだなって思った(笑)。だから地道にやっていくしかないんだろうなと、改めて険しい道のりだと感じたわけです。でも、それとは逆に日本に来て演出していただける共同演出のアンドリューさんは、すごく柔らかい感じの方。彼と稽古に入る前ワークショップを1週間やったんですけど、本当に優しい。ジョンはガンガン言うタイプでしたが、アンディーはずっと笑顔で。しかも“一人じゃないんだよ”って言ってくれるし、守ってくれる。もうその優しさと笑顔があれば、ついて行けると思いましたもん(笑)。ワークショップでは、戯曲のセリフの精査をするため、日本語に訳されたセリフをもう一度英語に直したりもしました。もともと英語のものですが、それがどういうニュアンスで日本語に翻訳されているか知りたいから、それをさらに英訳するという。そんなことをやりあいましたね。そこまでやってもまだ不安は解消されていませんが、でもこの不安は初日が開いてもずっと持ち続けるものだと思います。今日はできたけど、明日はできるんだろうかってずっと思って行くんじゃないでしょうか。スーパー歌舞伎に出演した時、猿之助さんがおっしゃっていました。“舞台というのは山を登るだけではなくて、下りるまでが舞台なんですよ”って。本当に初日から大千秋楽まで無事に勤め上げねばと、心しています」

 演じる役は20人。もともと難解かつ、膨大なセリフ量のシェイクスピアの原作は演じ分けも難しい。

「20役に挑戦!とかって言われていますが、僕は実際のところは1人の役だと思っているんです。舞台は病院で、その隔離病棟に入れられた患者、つまり僕がなぜかマクベスのせりふを語りだすという設定なんですね。だから彼自身の中で、起こることなので、大きく演じ分ける必要はないのかもしれないと思ったりもしています。ワークショップでも感じたんですが、特にマクベスとマクベス夫人は2人でひとつみたいなところがある。だから仰々しく演じるのではなく、しなやかにできればと思っています。その患者の中で無理せず演じている。演じ分けるのではなく、そうなっていくっていうのが、この芝居だと思うんです。ですから、結局は1人を演じるのだというつもりでやっていきたい。僕は以前『マクベス』をやらせていただいて、その時はもちろんマクベス役だけでしたが、マクベス夫人が喋っている時に、自分の心の動きを作ることができたんですね。セリフを聞いて、間があり、次のセリフを言う。間を入れず食い気味にいくこともありますが、それは掛け合いなので、そのへんも計算してできる。でも今回マクベスとマクベス夫人を両方一緒にやるとなると、やはり1人の人間が演じているので、頭から最後まですべてセリフがつながっているんです。つまりすべて1個のセリフなんです。この大きな1個のセリフを僕は演じることになるんだなという感じですね」

 20役の中でも演じるのが楽しみなのはどの役なのか。

「現時点では、もちろんマクベスを追いかけて行くのでマクベスですね。本来なら2幕で3時間ぐらいかかるところを一気に100分にして、マクベスに焦点を合わせ、マクベスの破滅を追っていく話なので、マクベス中心にはなりますが、自分の中で楽しみを覚えているのはマクベス夫人。だって“今すぐ私を女でなくし、頭のてっぺんからつま先までどす黒い残忍さでいっぱいにして”なんて普段は言いませんし(笑)。“私はお乳を飲ませて子供を育てた。この乳を吸う赤ん坊がどれだけ可愛いかよく知っています”って、こんなことは一生絶対に言わない(笑)。これは面白い体験だなと思っています。あとダンカン王の出演は2シーンだけですが、自分の中でちょっと楽しもうかなと思っています。ダンカンとロスは出番が少しだけど、おいしい役だな…助演男優賞あげたいなあ、みたいにしたいんです。まあ、そうやって面白がろうとしているけど、いかんせんやっぱりセリフ量が多すぎる(笑)」

 マクベスを、そしてシェイクスピアを理解するため訪れたスコットランドで佐々木が感じたこと。

「スコットランドの印象は、深い森、どんよりした分厚い雲、冷たい風、そして1日の中で目まぐるしく変わる天候。決して人には優しくないところは、まるで人間の都合など関係ないというような大自然。まさにシェイクスピアの世界観に触れた気がしました。1番印象に残っているのはダンシネインの丘。これが丘っていうより、結構な山だった(笑)。飛ばされそうなくらい強い風が吹いていて、あと、羊がたくさんいた。人より羊のほうが多いんじゃないかって気がしました(笑)。マクベスが魔女と出会ったという荒野では、アンガス牛が20頭ぐらいいて、まるでその場への立ち入りを拒むかのように僕たちの行く手を遮ってきました。そして森は、僕が当初思っていたのとは全然違いました。お弁当を持ってピクニックに行くような森を想像していたんですけど…。西洋の森は日本と違い“超自然な、何かおわします”って感じでした。総じて、スコットランドは自然や動物がすごく近く、それを肌で感じられたことは、今回の舞台を演じる上で大きな力になりました」

画像: 佐々木蔵之介 舞台『マクベス』で20役の一人舞台に初挑戦

映画やドラマに引っ張りだこの佐々木だが、年に1回は舞台に立ち、ついには市川猿之助によるスーパー歌舞伎にも出演した。

「自分は大学の演劇サークルから芝居を始めたので、やはり演劇がルーツです。そこで育ててもらいましたので。舞台に出ることは、自分の体力測定というか、今の自分を確かめる作業かもしれません。年1回板の上に立って、“どんなもんなんだお前は”っていう感じはあります。原点に戻って今の自分を試してみる。舞台に立つのは恐怖です。お客さんの前に自分をさらすのは怖いですが、そこはさらしてみなきゃいけないと思っています。歌舞伎に関しては、本当にいい経験をさせていただきました。毎日が驚きと発見の連続でした。まずその稽古にビビりました(笑)。1日1回しか稽古しない! ワンシーン通して1回で終わり。さらに、立ち回りはあっという間に作っちゃう。また、何で歌舞伎は1日昼夜2公演を休演日なしで数カ月も続けることができるのか、同じ板の上に立たせていただいて、少し分かりました。型があって、化粧があって、衣装があって、花道があって…すべてで歌舞伎なんだと! 歌舞伎俳優さんは化物です(笑)。猿之助さんに出演を誘われた時“兄さん、これを経験したら、その後、怖いものはないですよ”って言われました。というか歌舞伎の舞台に立つことがまず怖いわと言いましたけどね(笑)」

 何はともあれ、シェイクスピアファン、そしてもちろん佐々木蔵之介ファンには待ち遠しい舞台だ。

「本作の演出のアンディーがこう言っています。初めてシェイクスピアを見る方も、50回も見てきた方も両方が楽しめる作品だと。シェイクスピアといえば通常2幕で3時間を超えるお芝居が多いですけど、今回はそれを一気に、100分に濃縮しています。どうです、見やすいでしょう!(笑)。あと、設定は病院ですが、シェイクスピアのセリフを変えずにそのままやるので、そちらも見所のひとつだと思います。なんかずっと怖いとか不安とか言ってますけど(笑)、正直、公民館の会議室で1人で自主練しているより、今、稽古場に入って少し楽になりました。スコットランド本国の優秀なスタッフの方々やアラン・カミングが実際に使用していたセットも稽古場に入ったので、みんなからたくさんの力をもらっています。シェイクスピアと聞いただけで、固い芸術作品だと思う方も多いかも知れませんが、笑える部分もたくさんあるので、ぜひ、気軽に楽しみに劇場に来てほしいです。100分間、ずっと僕ばっかり出ていますが(笑)、マクベス夫人などの女性役も演じるので、そこも、おもしろがって楽しみにしていただきたいですね」
(本紙・水野陽子)

『マクベス』

画像: 『マクベス』

【公演日】7月12日(日)〜8月2日(日)【会場】パルコ劇場【料金】8500円(全席指定・税込)【問い合わせ】パルコ TEL:03-3477-5858【URL】www.parco-play.com

『動く森−スコットランド「マクベス」紀行−』

画像: 『動く森−スコットランド「マクベス」紀行−』

「マクベス」の舞台スコットランドを訪ね、舞台となった古城や森を逍遙。初めて目にする、ダンカン王殺しの現場、朽ち果てたマグダフ城址、魔女と出会った荒野、ダンシネインの丘、バーナムの森…。そこで佐々木の心中に去来したものとは。美しい写真と散文とで構成するフォト・紀行文。巻末には市川猿之助との「演劇談義」も収録。

【発売日】7月11日(土)【撮影】福山楡青【定価】2500円(税別)【発行】扶桑社

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