東海大学初の総合優勝で幕を閉じた今年の箱根駅伝。その立役者は、大会MVPに輝いた小松陽平だ。8区を22年ぶりとなる区間新記録で快走した小松選手は東洋大・鈴木宗孝を逆転、トップを独走した。幸運にも私はその8区を撮影することができた。毎年、アフロスポーツではスタッフ総動員で箱根駅伝の全区間を撮影しているが、今大会の私の担当は8区だったのだ。通常、駅伝は一つの区間で撮影できるのはワンチャンス。撮り逃しは絶対に許されない。何でもそうだが失敗しないためには、事前の準備が重要だ。最も重要なのは、撮影しやすい場所を確保することだ。言うまでもないが、沿道には報道カメラマン用の特別な撮影スペースなどあるはずもない。つまり“場所取り”は他カメラマンや観客との競争、早い者勝ちなのだ。今回は8区の撮影ポイントを予め決めておき、その地点でのトップ通過予想時刻の1時間半前には現場入りし、その付近で最も見通しの良い撮影場所を無事に確保した。その後は寒さにじっと耐えながら待機すること1時間余り。沿道は隙間がないくらい大勢の観客で埋め尽くされていた。先頭ランナーの接近を周知する広報車が通過すると、気合を入れて頭を撮影モードに切り替えた。ラジオの実況で東洋大・鈴木、東海大・小松の二人がデッドヒートを繰り広げながらも、今まさに小松がスパートをかけたことを把握。その光景をイメージしながらカメラを構えた。上空を飛ぶ中継ヘリの音が徐々に大きくなってくると、まずテレビ中継車が視界に入ってきた。報道カメラ車、白バイがその後に続くが、車両の陰に隠れてランナーの姿は一向に見えない。そして白バイが接近してきたその時、ようやく二人の姿が現れた。トップを快走する小松、必死で追いかける鈴木。沿道には声援を送る大観衆、後方には檄を飛ばす監督車。そして小松の横には並走する給水スタッフの姿。レース後に知ったが、彼は故障で出場が叶わなかった三上嵩斗だった。いろんなものが凝縮されたこのシーンを撮り逃すまいと、私は必死にシャッターを切った。小松が現れてから私の横を通過していくまでの時間はわずか7秒。私にとって“7秒間のドラマ”だった。■カメラマンプロフィル撮影:西村尚己1969年、兵庫県生まれ。大阪大学大学院工学研究科修了。人間味あふれるアスリートの姿に魅せられ、学生時代にスポーツ写真の世界と出会う。大学卒業後は、国土交通省に勤務しながらアマチュアカメラマンとして活動するも、どうしてもプロの世界で挑戦したいという想いが募り、2016年にアフロスポーツに転職。現在は国内外のスポーツを精力的に撮影し、人間の情熱や鼓動、匂いなど五感で感じとれる作品づくりに励む。2007年 APAアワード写真作品部門 奨励賞2013年、2015年 写真新世紀 佳作 ほか
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