画像: 「尾崎世界観は、私たちが大声で言えないことを言ってくれる」クリープハイプ最新ツアーライブリポート

「尾崎世界観は、私たちが大声で言えないことを言ってくれる」クリープハイプ最新ツアーライブリポート

ロックバンドのクリープハイプが5thアルバム『泣きたくなるほど嬉しい日々に』のツアー追加公演、『こんな日が来るなら、もう幸せといい切れるよ』を19日、完走した。追加公演はホールツアー。全席指定席、もちろんモッシュやダイブは禁止だ。今回は4月11日に行われた神奈川県民ホールでのライブの様子をリポートする。
アコースティックから始まったライブ、静かに泣くファンも
クリープハイプは結成から今年で18年目。聞くファンも、クリープハイプ自身も、時代とともに変化しているのだと思う。当日のホールには、女性が多かったろうか。みなそわそわと、指定席に腰掛けながら、主人公が現れる前のステージに熱い視線を向けていた。
開演のブザーが鳴り響くと、客席から人々が跳ねるように立ち上がった。1stアルバムの、しかも初回限定盤に収録されていた、名曲「ex ダーリン」のアコースティックからの始まりだった。
尾崎世界観という男は、今のバンドシーンに1ジャンルとして君臨する「共感性バンド」「ノンフィクションさ」というフィールドを作った男なのではないだろうか。クリープハイプの曲は、今らしい消費されゆく女性の姿を彷ふつとさせる、終わってしまった恋の曲や後悔を振り返るような歌が多い。
「exダーリン」もそんな曲だ。隣にいる女性が、尾崎の高音に震え、静かに涙を流し始めた。千切れそうな高音を聞いていると、なぜか泣きそうになる。その気持ち、分かる。
会場には、まだ学生らしき人も多かった。1stアルバムの発売は2012年。追いかけて全曲聞くような、濃いファンたちが集まっていることを感じさせた。
尾崎世界観は、私たちが大声で言えないことを言ってくれる
2曲目、最新アルバムの中から「泣き笑い」。バンドサウンドと共に、客席から無数の手が伸びた。ホールが、縦に揺れたような気がした。その後、映画『帝一の國』の主題歌にもなった「イト」が続き、会場のボルテージもあがっていった。
しかし、尾崎はMCの一言め、「半端だなあ」と言った。クリープハイプのファンは元気がない、と。好きに楽しんでくれ、と言った。
半端だと漏らしながら、その半端さを喜んでいるように見えた。
その後、最新アルバムから「禁煙」「おばけでいいからはやくきて」、2ndアルバムからベースの長谷川カオナシボーカルの「かえるの唄」と続く。長谷川作曲の曲はライブではキラーチューン。会場がどんどん暑くなっていた。この辺りで、羽織っていたシャツを脱いだ。
次のMCで、尾崎はこんなふうに話した。
「ツアーを回っていると、身の丈に合ったお客さんが来ているなと感じます。クリープハイプのファンは、最前でしんどそうだと言われるのは悔しいけど...こういうバンドが好きなんだから、しょうがないでしょ。でも、派手に動いたり大きい声を出す人が偉いワケではないと思います」
ライブが始まる前に、近くの席にいた女性に「なぜクリープハイプが好きなのか」を聞いていた。今年24歳だという女性は、こう話していた。
「自分が言えないことを、大声で言ってくれるから。会社に向かう電車の中で、何度クリープハイプに助けられたか分からない」
尾崎のMCを聞いて、「ああ、こういうことなのだろうな」と、その女性の気持ちがわかったような気がした。
代表曲のオンパレード! ここまで更新し続けるバンドがいたろうか
尾崎が書いた曲を、さまざまなアーティストとユニットで歌い話題になった「栞」では、会場に桜ではなく、金銀のリボンが散った。クリープハイプにしては、派手な演出だなあと感じた。しかし、一匹狼のように活動しているように感じていたクリープハイプが、他の様々なバンドと合同で歌う曲を出した時は衝撃だった。クリープハイプも、少しづつ前に進んでいるのだと思う。
後半戦は名曲のオンパレードだった。1stアルバムの名曲「オレンジ」、映画『百円の恋』の主題歌となった「百八円の恋」、シングルカットされた「社会の窓」、最も愛されている(ように感じる)「HE IS MINE」。
「社会の窓」の歌詞に、このようなフレーズがある。
すごく大好きだったのに あのバンドのメジャーデビューシングルが
オリコン初登場7位 その瞬間あのバンドは終わった
だって私のこの気持ちは シングルカットできないし
クリープハイプのキラーチューンだ。古株ファンが有名になっていくバンドを見て、少し今までより遠く感じてしまうような、そんな心境が歌われている。今やクリープハイプ自身が、そんな場所に来てしまっている。もう昔のような、小さなライブハウスでは見ることができない。
しかし、クリープハイプは前に進んでいる。昔の代表曲はやっぱりアツい。でも、アルバムの代表曲「栞」だって、同じくらいアツかった。
ここまで昔のファンを抱えながら、昔の曲を愛されながら、新しい曲を支持させるバンドが他にいただろうか。最近は音楽業界自体が、アップデートされないことを嘆かれることも多い。でもクリープハイプは違うのだ。
後悔だけではだめだ 自分を受け入れて前に進もう
公演の終盤。追加公演のツアー名「こんな日が来るなら、もう幸せといい切れるよ」は、本アルバム「燃えるごみの日」の1フレーズから来ている。
思えば昔のクリープハイプの曲は、「後悔」をはらむ曲ばかりだった。終わった恋愛、うまくいかない人生、噛み合わない男女。
しかし、「燃えるごみの日」は違う。大切な人と過ごす日々の、なんでもない日常の尊さを歌っている。
終盤のMCで、尾崎はこう語った。
「ライブをしなければ考えなくて済むことがたくさんある。でもライブをすると、こんなに考えることがある。幸せだと思って、ライブで歌うことはあまりないです。ライブをしていて 楽しい、気持ちいいと感じることはほとんどない。でも、だからこそ長く続けられるのだと思うし、これからも続けていきたいと思います」
尾崎自身、満たされない何かや、認められない自分を抱えながら生きてきたのかもしれない。でも、クリープハイプにはこうしてたくさんのファンがいて、今尾崎は、後悔ではない感情も歌っている。
最後の一曲はシングルカット曲、「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」だった。会場の多くが涙していた。
終演後、今度は男性に「なぜクリープハイプが好きなのか」を聞いた。25歳の男性は、こう答えてくれた。
「彼の人間性に共感することがすごく多い。彼はきっと、声とか、他のもろもろ含めて、自分のことがキライなのかもしれないけど、でも恥ずかしいことや言いづらいことを、あんなに必死で歌ってくれるから。自分も、もう一歩進みたくなる。あこがれの人」
彼が歌う人間味の深い歌詞で、勇気づけられる人がいる。尾崎世界観も私たちも、明日も息をして生きていき、1日ずつ歳を取るのだ。
愛にあふれたライブだった。
(文・ミクニシオリ)

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