画像: 岡田武史氏が日本サッカー界に「主体的にプレーする自立した選手の育成」を提言

岡田武史氏が日本サッカー界に「主体的にプレーする自立した選手の育成」を提言

ベンゲル氏は進化は認めつつも辛口提言
かつて名古屋グランパスエイトで監督を務め、2017-18シーズンまで英プレミアリーグのアーセナルの監督を務めたアーセン・ヴェンゲル氏が10月24日、東京・渋谷で「街とサッカー・スタジアムの幸せな関係」といったテーマで講演会を行った。
これは代々木公園エリアに3万人収容規模のスタジアムパークをつくる「SCRAMBLE STADIUM SHIBUYA」構想を持つ「渋谷未来デザイン」が主催したものでアーセナルの監督時代にエミレーツスタジアムの建設の陣頭指揮を執った同氏にその哲学やスタジアムの在り方といったものを語ってもらおうというもの。
講演の前に囲み取材に応じたヴェンゲル氏は現在の日本サッカー界について「名古屋に来たのが1995年。Jリーグがその3年前に発足。サッカー熱がとても盛り上がっている時に日本に来ることができ、日本のサッカーの発展に立ち会った経験が今の私の中にも残っている。とても勢いのある時代、サッカーにとても貪欲な人たちに囲まれた時代だった。日本のファンに言いたいのは、日本のサッカーはこの20年でとても進化したということ。ただ20年前からの弱点もまだ克服されていないように思える。W杯でもその弱点が空中に漂っていた。得点されるとパニックになってしまう。ベルギー戦などがいい例。そういう弱点の克服がまだ追い付いていない気がします」と語った。
一部で日本サッカー協会がアドバイザーへの就任を打診したという報道があったがこれにつては「ノー」とはっきりと否定した。
日本で指導者になることについては「今後については決まっていない。日本が好きなので、ずっといたとは思っている」と語るにとどめた。
またヴェンゲル氏は先月、吉本興業とマネジメント契約を結んだのだが、サッカー以外の活動については「講演会、インタビュー、ラグビーを見たりします(笑)」などとジョークまじりで話した。
ヴェンゲル氏と岡田氏が「日本サッカーを強くする方法」を激論
講演は二部構成で行われ、 第二部は元日本代表監督で、現在、FC今治の代表取締役会長を務める岡田武史氏がゲストとして登場。「日本サッカーを強くする方法」をテーマにヴェンゲル氏とトークを展開した。
岡田氏は「彼がグランパスの監督で来たころは挨拶する程度だった。2010年のW杯の時に時々ヨーロッパに行っていた時にアドバイスをもらうようになってからちょっと親しくなった」と2人の関係を話す。そして「ヴェンゲルさんとは約束がある。2010年のW杯の時に“このグループを突破できるわけがない。だってセットプレーでどーんで終わりだろう。もしグループを突破できたら、東京にビッグスタジアムを建ててやる”って言ったんです(笑)。W杯が終わって何年か後に“約束覚えてる?”って聞いたら“ビッグスタジアムか?”って(笑)」などと2人の間でのエピソードを明かした。
岡田氏は日本のサッカーの進化について「日本のサッカーは確実に進歩していると思う。しかしひとつだけどうしても超えれれない壁がある。主体的に自分でプレーする、自立した選手が少ない。いい時はすごくいい。ひとつ歯車が狂うと自分たちでリカバーできない。ジーコ監督の時のドイツW杯の日本代表はすごく強いと思った。ところが初戦のオーストラリアに逆転負けしたらリカバーできなくなった。ザッケローニの時もそう。ものすごくいいチームだと思った。ところが初戦で負けた時にリカバーできない。なんなんだろうとずっと思っていて、それは主体的に自分でプレーできていないからだと思った。主体的にプレーする自立した選手を育てるのが日本の課題。それを今治でやろうとしている」と話すとヴェンゲル氏も「最後に一歩踏み出す時の自分への自信がない。それが足りない。どんなプレッシャーの下でも“いける”というような自己肯定感というか、一歩を踏み出す勇気や、恐怖に打ち勝つ自分がいるということが大事。メンタルを強くしていくことが大事」などと同調した。
岡田氏「日本人の一つになる強さというものもある」
また岡田氏は「1998年のW杯はとても大きな壁を感じた。当時、海外でプレーしている選手はほとんどいなかった。スタートラインの10メートル後ろからスタートしているような状況。それをなんとか同じラインからスタートさせようとしたが、力の差を感じた。2010年はかなり差が埋まっていた。海外でプレーする選手も何人かいた。それ以上にアンダーの世界選手権、U-18のW杯で勝つといったことが少しずつ自信になって、スタートラインが一緒になった。そういう中では外国人にはない日本人の良さというのもある。例えば陸上の4×100リレー。一人ひとりのタイムを合わせたら絶対に勝てない。ところがリレーだとメダルが取れる。今回のラグビーW杯も、ラグビー関係者は全員“絶対勝てない”と言ってた。まあ、僕も言われていたけどね(笑)。ところが日本人の一つになる強さというものもある。だから決して日本が劣っていたとは思っていなかった。個の力は劣るが世界で戦っていける力はあると思っていた。ただ最後の主体的にプレーできるかどうかは大きなポイントだと感じたので、今そういう選手を育成するチャレンジをしている」とここでも「主体的にプレーできる選手」の育成について繰り返した。
ヴェンゲル氏も「恐怖は個人個人の中に宿っている。怖さに目を向けるのではなく、自分は何をしたいのか、目指すものは何かを問うこと。日本のサッカー界はパフォーマンス性をいかに良くしていくかに注目し、複雑でなおかつ非常にシンプルなやり方でそういったパフォーマンス性を構築できると思う。人間が自分のベストパフォーマンスを超えるために、無意識に持っている力を誰かが引き出さないといけない。あるいは自分に言い聞かせてもっとパフォーマンスを上げないといけないということ」などとアドバイスした。
ヴェンゲル氏「結果を予想し、俯瞰して問題点を見つけ出す」
そういった若い選手の才能を引き出すということについて岡田氏は「ある生物学者が、先祖が氷河期なんかを乗り越えてきた強い遺伝子を持っているが、こんな便利で安全な社会にいたらその遺伝子にスイッチが入っていない。スイッチが入るには危機感とか困難を乗り越えてきて初めてスイッチが入る。今、我々が作って来た豊かな社会は困難をどんどんなくしている。なにもしなくても生きていける。そんな時にメンタリティーが強い人間はなかなか出てこない。僕は98年のW杯の時に、97年にカザフスタンで加茂さんが更迭になられて、僕がいきなり監督になった。41歳で監督の経験がなかったのに。凄いバッシングがあったし、有名になるとは思っていなかったから、電話帳に載せていたら脅迫電話が止まらない。家の前は24時間パトカーが回っていて、子供は危険だから学校は送り迎えしなさいって言われて、家内が毎日心配していた。考えられないような状態で生活していた。最後にジョホールバルに行って、家内に“明日。もし勝てなかったら俺は日本には帰れない。海外に住むことになる”って本気で思っていた。ところがそれからちょっとして、“もういい”となった。明日できることは今の俺の力を出すこと以外はできない。ある意味命がけでやる。それで駄目だったら自分の力が足りないのだから仕方ない。“国民の皆さん、申し訳ありません”と謝ろうと思った。でも、“絶対俺のせいじゃない。俺を選んだ会長、あいつのせいや”とも(笑)。こう思った瞬間から多分、遺伝子にスイッチが入って自分の人生が変わり始めた。怖いものがなくなった。そういう経験をどんどん社会がなくしている。スポーツだけでメンタリティーを強くするのは難しい。ヨーロッパにはまだそういうところは残っている」などと自らの経験をもとに分析する。
これにはヴェンゲル氏は「選手はプレッシャー下でいかにいいパフォーマンスを出すかということに専念する。そこでできることは自分の全てを出すこと。そしてできなかったら謝ろう。そこで切り替わるわけです。プレッシャーがかかったら逃げるか直面するかの二択しかない。もちろん怖いという思いは誰の中にでもある。ただ、もし負けたらどういう結果が出てくるのかということを考えると、負けないためになにをしたらいいかということは俯瞰して見ると分かってくるのではないか。なので結果がどういうふうになるかを予想して、問題がどこにあるかが分かったら、その問題を解決することが大事なんだと思う。怖いと思うことは自然なこと。負けないために問題点がどこにあるかを引いて見て、どう解決するかを自分に課していくしかない」と話した。
ヴェンゲル氏「クリエイティビティーを忘れてはいけない」
そして最後にサッカーの未来については岡田氏は「数年前からサッカーは習熟曲線はフラットに近くなってきていると思っている。昔はW杯のたびに劇的な新しい戦術が出てきた。今は出てこない。より早く、より強く、より正確に、になってきている。これはもう少し続くと思っている。もしかしたら、ルールの変更なんかが起こって、新しいサッカーが生まれてくるかもしれない。今のルールの中ではある程度習熟しきって来たかなと思う。オフサイドのルールが変わるといったことがあった時に新しい戦術が生まれてくるのではという気がしている」
ヴェンゲル氏は「サッカーは確かに習熟期なのかもしれない。テクニカルとフィジカルはトップレベルに達している。ただ忘れてはいけないのはクリエイティビティ―ではないか。クリエイティブな創造的なサッカーをする選手が首になったり、ゲームから外されたりということはよく見て来た。フィジカルがあまりにも強くなって、クリエイティブが殺されるというのは非常に残念。サッカーは表現力の芸術であり続けなければならないと思うので、我々監督がしなければいけないのは、そのテクニカル、フィジカルとクリエイティブな面を複合して伝えて、実践してもらうことだと思う」などとそれぞれ話した。

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